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新潟地方裁判所 昭和30年(タ)14号 判決

原告 山木正次

被告 山木正雄(いずれも仮名)

主文

1、被告は原告の子でないことを確認する。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、主文第一、二項と同旨の判決を求め、その請求の原因として、

「一、被告は、戸籍上原告と訴外山木良子との間に昭和二十七年七月五日出生した長男として記載されている。

二、しかしながら、右戸籍の記載は、真実に符合しない虚偽のものである。すなわち、原告は、右山木良子と昭和二十三年三月十日結婚して同棲し、同二十五年十一月六日婚姻届をしたところ、同女は、同二十七年七月五日被告を分娩するにいたつた。ところで、原告は、右結婚当初より全く生殖能力を有していなかつたものであり、したがつて、右山木良子は、結局、原告以外の他の男子と情交関係を結んだ結果被告を分娩するにいたつたものである。かような次第で、原告と被告との間には真実親子関係が存しないのである。

三、そこで、前記戸籍の記載を真実に符合せしめる必要があるので、ここに原告は、被告に対し原告と被告との間に親子関係の存在しないことの確認を求めるため、本訴請求に及んだ。」

と述べ、

立証として、甲第一ないし第十六号証を提出した。

被告は、原告の請求を棄却する、との判決を求め、答弁として、原告主張の事実中、一、の事実および二、の事実のうち、被告が原告主張の日に原告と結婚して同棲し、その主張の日に婚姻届をしたことはいずれも認めるが、その他の事実は全部否認する、と述べ、甲第二、第三号証の成立はいずれも知らないが、その他の同号各証の成立はすべて認める、と述べた。

理由

いずれも成立に争いのない甲第一号、同第十六号証によると、山木良子は、昭和二十三年三月十日に結婚して同棲し、同二十五年十一月六日正式に婚姻届をしたこと、および同女は長男である被告を昭和二十七年七月五日に月満ちて分娩したものであることが認められ、右認定の事実からすると、同女は大体において昭和二十六年十月前後のころ被告を受胎するにいたつたものであることを推認することができる。しかるに、成立に争いのない甲第七号証によつてその成立を認め得る同第二号証に同第七号証を照合すると、医師古屋勉が昭和二十五年七月十九日原告の精液を検査した結果、原告は、全然精子を保有せず、いわゆる精子欠如症であつて、全く生殖能力を有しなかつたこと、および原告のこのような症状は、いわゆる先天的であつて現在における医学では(これが後天的である場合をも含めて)全くその治療方法がないこと等が認められ、また、成立に争いのない甲第六号証によつてその成立を認め得る同第三号証に同第六号証を合わせると、医師石井昌平が昭和三十年三月十一日ごろ原告のこう丸組識を組識学的検査によつて診察した結果、原告については全く精虫形式を認めることができなかつたこと、および原告のこのような状態は、五年や六年で回復するというようなことはなく、医学的見地からはほとんど回復不能であること等が認められるので、以上認定の事実からすると、原告は、少くとも昭和二十五年七月ごろから同三十年三月ごろまでの間は引き続き全く生殖能力を有しなかつたことをうかがい知ることができる。

果して以上にみたとおりだとすると、結局、被告は、山木良子が原告以外の他の男子と情交関係を結んだ結果懐胎分娩したものであることは明らかといわなければならない。(なお、この場合、被告は、山木良子が前記のとおり原告と婚姻中に懐胎した子であるけれども、前記認定のように、夫たる原告は、婚姻中全く生殖能力を有しなかつたことが極めて明白であり、したがつて被告が原告の子であり得ようはずがないのであるから、このような場合には、民法第七百七十二条によつて原、被告間に父子関係の存することの推定はうけないのである。)甲第十六号証中前記認定に反する部分は信用しない。

しかして、山木良子が昭和三十年四月五日ごろ原告の兄山木正一および原告の姉黒田ヨシに対しそれぞれ同人ら方で自分は子供欲しさに原告以外の他の男子の子(被告)を生んでしまつた旨を話している(この事実はいずれも成立に争いのない甲第八号証、同第十号証によつてこれを認める。)ということは前段の認定を補強するものということができる。

しかるところ、被告が戸籍上原告と山木良子との間に出生した長男である旨記載されていることは前記甲第一号証に徴して明らかであるから、原告と被告との間に親子関係の存在しないことの確認、すなわち、被告は原告の子でないことの確認を求める原告の本訴請求は、正当としてこれを認容すべきである。

よつて、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 唐松寛)

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